2017.5.1 UP DATE

【ミマス連載】「歌と旅と星空と」~第2章『想いが曲になるまで』 Vol.1 いつかこの海をこえて

 日本全国の学校や合唱団で歌われ続けている合唱曲《COSMOS》や《地球星歌》。旅の体験や星空の影響を受けた作者のミマスさんが自身の想いをこめた歌です。そのメッセージが、十数年の時をかけて歌とともに広まっています。


 この連載ではプロローグ《地球星歌の旅》に続き、ミマス作品に込められたご本人の体験をエピソードとともに紹介していきます。

 

vol.1 《いつかこの海をこえて》はこちら
Vol.2 《一つの明かりで》はこちら
Vol.3 《エスペランサ~希望~》はこちら
Vol.4 《つないで歌おう》はこちら
Vol.5 《心のなかの広い宇宙を》はこちら
Vol.6 《明日への空へ》はこちら

 


 

想いが曲になるまで Vol.1 《いつかこの海をこえて》

 

 《いつかこの海をこえて》は、東日本大震災で大きな被害をうけた岩手県・釜石市立釜石東中学校の生徒の皆さんと一緒に作った歌です。180余名の全校生徒の皆さんの想いと願いが詰まった、大切な歌です。僕にとっては、この歌を作ったことは「人生で最も難しい仕事」となりました。でも音楽を作る人間として、本当に貴重な経験をさせていただいたと思っています。

 

 まず最初に、釜石東中学校についてご説明しましょう。この中学校は釜石市の北部、鵜住居(うのすまい)地区にあります。根浜海岸という美しい砂浜が学校のすぐそばにあり、生徒の皆さんは穏やかな海辺で暮らしていました。

 

 
三陸海岸にある釜石はやはり遠く、そこへ行くには長旅になります。東北新幹線で新花巻駅へ。そこからはのどかなJR釜石線の列車で2時間です。

 


 
JR釜石線は宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」のイマジネーションの元になった鉄道と言われます。そのため、全線の駅名の看板が星空や宇宙をイメージさせるデザインになっています。

 

 

 2011年3月11日。東日本大震災の日、大きな津波が校舎の3階の高さまで達しました。この学校では日頃から津波を想定した避難訓練を徹底して行っていたことが幸いし、当時登校中だった全ての生徒さんたちが助かったのです。高台へ避難するさいには、隣の小学校の児童の手を引いて逃げたそうです。彼らの行動は当時、「釜石の奇跡」という言葉とともに全国に知られるようになりました。とは言っても、その日学校を休んでいた生徒さんの中に亡くなった方がいますし、生徒さんの7割が自宅を流されました。愛するご家族を亡くされた生徒さんもいます。注目を集めたことで、様々な影響もあったと伺っています。

 

 釜石東中学校の皆さんと一緒に歌を作ることになった経緯や、僕たちが実際に釜石を訪れたときの様子。それらについては、これまでもいろいろな機会で述べています。著書『君も星だよ』音楽之友社HPの連載で詳しく語っていますので、ここでは曲作りの具体的な過程についてお話しすることにしましょう。

 

 歌作りにあたっては、中学校の先生が生徒さんたちにアンケートをとって送ってくださいました。歌詞に込めたい想いや入れたい言葉を、全校生徒が書いてくれたのです。皆さん大変な状況のなか、本当に真摯に想いをつづってくれました。

 

 その用紙は今も僕の手元に大切に保管してあります。そこには、本当に壮絶な内容がつづられています。『どんなことでもいいので、今の素直な気持ちを書いてみましょう』。その質問に対し『がれき』『黒い波』『闇』『絶望』などの言葉を並べた子もいます。『行方不明』と書いた生徒さんもいます。『私の家は無事だったけれど、周りの友だちはみんな自宅を流されました。だから私は恵まれていて、泣いてはいけないと分かっています。でもそれがとても辛いです』。そんなふうに、勝手に"自主規制"をして苦しんでいる生徒さんもいました。『がんばろう、みたいな言葉』というシニカルなコメントにはドキッとしました。僕は、みんなが送ってくれたこの用紙(いま改めて数えたら169枚ありました)は、メディアの報道では決して伝えられなかった震災の重大な一面を物語る第一級の資料だと思っています。いつかは必ず、彼らの故郷のしかるべき場所にお返しし、大切に残されなければならないと思っています。

 

 僕は彼らの言葉を丁寧に読みました。心を震わせながら読んだ夜のことは今も鮮明に覚えています。一つ一つの言葉が心臓に鋭く突き刺さり、本当に涙が止まらなくなりました。そして、これは大変な仕事を引き受けてしまった…と思いました。

 

 彼らの言葉のなかで特に多かったのが『希望』と『感謝』。『仲間』や『友達』も多かったです。大半は、そのような前向きで力強いポジティブな言葉でした。僕はやはり、未来への希望の歌を作ろうと思いました。そのとき僕は一つの光景を思い浮かべていました。今から何十年後、大人になった彼らが幸せな人生を実現し、穏やかな気持ちで愛する人たちと一緒に海を見つめている…。そんな日が来ることを願って、作詞と作曲にとりかかりました。

 

 「いつかこの海をこえて 僕たちは舟を出そう」。サビの部分のこの詞は、この歌のとても大切なところです。彼らの人生が、これから始まるのだということを表しています。そして、誰にとっても同じことですが、その道のりが決して楽なものではないことも示しています。それでも彼らは最後にはきっと、幸せな人生を実現し、美しい故郷の再建を果たすだろう。僕はそのように信じ、強く願っています。歌の最後で主旋律が、「るり色の、海へ~」とE♭の音をまっすぐ伸ばします。これは長い時間の果てに最後にたどり着く心の平安を願ったもの。その間ピアノは「G→A♭→B♭→C→D→E♭」と上がってゆきます。ベースの音も平行して「E♭→F→G→A♭」と上がってゆきます。この上昇音階は、未来へと登ってゆく歩みの一歩一歩を表しています。作者としてはそんな意味を持たせていますが、基本的には、歌ってくださる方、聴いてくださる方にそれぞれの解釈をしていただけたらと思います。

 


こちらの写真は釜石駅に到着した普通列車。釜石駅周辺は近年急速に開発が進み、新しい街づくりがすすんでいます。若い皆さんが大人になるころ、どんな街になっているでしょうか。

 

 


今でも一年に一度ほど、釜石を訪れる機会をいただきます。2014年11月には、釜石市で行われた「第62回東北音楽教育研究大会」「第56回岩手県音楽教育研究大会」にゲストとしてお招きいただき、東北地方各地から集まった大勢の小中学校の先生がたの前でコンサートを行いました。また、釜石地区の中学生たちによる「いつかこの海をこえて」の素晴らしい合唱も拝聴しました。一緒に歌を作った生徒さんたちはとっくに卒業して高校生や大学生、社会人になっていますが、現在の中学生たちが大切に歌いついでくださっており、本当に感謝しています。

 

 

ミマス

 


 

 

 僕は自分が作った合唱曲を歌ってくださる方々に対し、『こういうふうに歌ってほしい』というリクエストはあまりありません。自由にイマジネーションや想いをふくらませ、その人なりに歌っていただくのが一番だと思います。

 

 でも、この《いつかこの海をこえて》については、一つだけぜひ大切にしていただきたい箇所があります。歌の最後に出てくるフェルマータ。これは釜石の皆さんの想いがつまった大切なものですので、しっかりと表してほしいです。このフェルマータの意味とは何でしょうか。それは、著書「君も星だよ」でも語っていますし、いろいろなところで公言していますので、答えを探すのは難しくないと思います。あえて調べたりせず、歌ってくださるクラスや合唱団のメンバーであれこれと考察していただくというのも、良い合唱を作るための手段になるかもしれません。大切なのは"正解"ではなく、歌ってくださる一人ひとりが自分で何かを感じ、考え、自分の想いを歌に乗せてくれることです。ちなみに、この歌を合唱曲に編曲してくださった富澤裕さんは、僕が書いた楽譜を最初に見たときに、このフェルマータの違和感とその意味に気づいたそうです。そして素晴らしい合唱曲に作りあげてくださいました。

 

  ところで、この『オントモ・ヴィレッジ』のウェブページには、皆さまの合唱の動画を発表するコーナーがあります。この曲だけでなく、《COSMOS》や《地球星歌》などミマス作品ならどの曲でもOKだそうです。ぜひあなたのクラスや合唱団の演奏を、世界に向けて発表してください。応募方法は「歌声を発表しよう」をごらんください。 

 

 

 

  さて、この連載では、毎月ちょっとした星空案内も載せることになりました。僕は単なる星好き放浪ミュージシャンですから、専門的なことは書けません。初歩的で、誰でも楽しめる星空の世界へあなたをご案内できたらと思います。僕はいちおう星座くらいは分かりますので、いまもプラネタリウムでコンサートをするさいは星座解説も自分でやっています。

 

 晩秋の11月。この時期に注目していただきたい星たちのなかに、織姫と彦星があります。「えっ? 織姫と彦星って七夕の星でしょ。今さら見えるの?」と、多くの方は意外に思うことでしょう。でも、織姫星(こと座の1等星ベガ)と彦星(わし座の1等星アルタイル)は11月でもちゃんと見えています。

 

 日が暮れて暗くなった宵の頃。午後7時から8時頃に西の空を見ると、同じくらいの高さに、左右にだいぶ離れて明るい星が2つ並んで輝いています。右のほうが織姫ベガ、左が彦星アルタイルです。真夏の七夕の頃だと、天頂(頭の真上)で輝く織姫に対して彦星はだいぶ南の低いところにあり、ずいぶんと「格差」があるように見えてしまいます。ところが晩秋には宵の西の空で、2つの星が同じ高さで左右に並んで輝くようになります。こちらのほうが、二人の仲睦まじい様子が感じられ、ロマンティックで微笑ましい光景になるのです。僕の知り合いの天文ファンのなかにも、七夕の頃よりも秋の織姫・彦星のほうが風情があって好きだという人も結構いるのですよ。

 


 

 Instagramをフォローしてミマスさんの写真をもっと見よう!


 

 

 <ミマスのライブ映像>

『君も星だよ』発売記念 アクアマリンのトークライブ動画

 

 

ミマス プロフィール

 

 

 

 

 

 

 

 

Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」のメンバー。1998年6月結成。作詞作曲、キーボード、ギター担当。星空・宇宙・自然・旅などをテーマに、生命の大切さや生きることの素晴しさを歌う。天文やアウトドア系のイベント出演、プラネタリウムでのコンサート多数。文部省国立天文台後援のスターウィーク(毎年8月1~7日)1999年のテーマソング《COSMOS》でメジャーデビュー。混声三部合唱の楽譜が発売され、全国の学校や合唱団で歌われている。

 

合唱曲になっている代表曲:『COSMOS』『地球星歌~笑顔のために~』『明日の空へ』『Voyager(ボイジャー)』『星降る里』『いつかこの海をこえて』『一つの明かりで』『心のなかの広い宇宙を』『つないで歌おう』『エスペランサ~希望~』

 

5月27日生まれ。双子座A型。神奈川県茅ヶ崎市出身。茅ヶ崎市立西浜小学校、西浜中学校、茅ヶ崎北陵高校、法政大学文学部地理学科卒業。小学校5年生のとき理科の授業をきっかけに星や天文に興味をもち、平塚のプラネタリウムに毎週通って星座を覚える。そのときプラネタリウムのBGMとして流れていた美しいシンセサイザー音楽に魅かれ、人生で初めて音楽を好きになる。現在は神奈川県平塚市在住。

 

1996年10月からパーソナリティをつとめているラジオ番組「ミマスの星空音楽館」は、地元のラジオ局・FM湘南ナパサ(78.3MHz)で毎週日曜20:00~21:00に放送中。
2001年から天文雑誌の月刊誌『星ナビ』(毎月5日発売)で毎月コラムを連載している。
2016年8月8日、初のエッセイ『君も星だよ~合唱曲《COSMOS》に込めたメッセージ~』(音楽之友社)が発売。

 

そのほかの みる・きく