2017.5.2 UP DATE

【ミマス連載】「歌と旅と星空と」~第3章 前編『《ミマス・ワールド》が生まれた原点』

ミマスさんはどうやって「ミマスさん」になったのだろう?
仕事部屋にお邪魔し、これまで語られていない素顔にぐぐっと迫りました。

取材・文=小島 綾野 


 

 「君も星だよ」……そのフレーズに出逢って、「自分はどこから来たのか」という問いの答えを見つけた。「君の温もりは宇宙が燃えていた遠い時代の名残」「百億年の歴史がいまも身体に流れてる」……『COSMOS』の歌詞には、この世界・地球・宇宙への崇敬と、その一部分として生きる人間の哲学が、科学の眼と平易な言葉で綴られている。

 
 それを書いたのはご存知、音楽ユニット「アクアマリン」で作詞・作曲やキーボードなどを務め、自他共に認める天文にも造詣が深いミマスさん。「君も星だよ」というフレーズを綴る人物は、いったいどんな眼で世界を捉え、どんな思考回路でそれを音楽に紡いでいるのだろう。あるいは、その世界観はどんな経験や知識をもとにして築かれたのだろう。そして、プライベートでは二児の父親として、自身の子どもにはどんなことを語るのだろう……それを知りたくて、ミマスさんの故郷の神奈川県茅ケ崎市を訪ねた。
 

目次
・焦りから広がった趣味
・旅と星
・精巧なルールと自然
・「正確さ」と「美しさ」

・自然と人生の指針
・ミマスの星空ニュース

 

「教養を身に付けなくては」という焦りから広がった趣味

 
 海岸にほど近い住宅街の一角、仕事場にしているのは生まれ育った実家の一室だ。20歳の頃に一度建て替えをしたそうだが、ミマスさんはここで音楽制作をし、旅の計画を立て、天文への探究を深めていた。あるのはPCデスクと音楽制作の機材、落ち着いたブラウンで統一されたいくつもの書棚。その1つには、クラシックのCDが何段にもわたって収められていた。 
 
「クラシックで一番好きな曲は、ブラームスの交響曲第1番ですね。『マタイ受難曲』とか『新世界より』、それからブルックナーの交響曲8番・9番や、マーラーの『千人の交響曲』などもすごく好きです。室内楽よりもオーケストラが好きなのは、やっぱり壮大な、宇宙的なものに惹かれるからかも。でも、もともとはクラシックには全然興味がなくて、20歳ぐらいまでは自分の好きなことだけ勉強していました」
 
 
 
 星を見たり旅をしたり、気の向くままに音楽制作をしたり……「自分の好きなもの」にのみアンテナを向けていた生き方に衝撃を与えたのも、また星にまつわること。
 
「子どもの頃から近所のプラネタリウムに入り浸っていた僕を、解説員さんが可愛がってくださったんです。それである時、プラネタリウム関係者の会合に連れていってくれて。『みんな星の話をするんだろうな』ってわくわくしていたら、素晴らしい星座の解説をする人たちがしていたのはギリシャ文化とかクラシック音楽とか、美術、歴史……そういう話ばっかりだった。ある人が言うには『星のことしか知らない人がする星の話ほど、つまらない星の話はない』と。そこで非常にショックを受けて『星の解説をするには、背景になる深い教養がないとダメなんだ』と思って、クラシック音楽を聴き始めたんです」
 
 そう苦笑しながら見せてくれたのは2冊の本。『クラシックの名曲100選』と『続・クラシックの名曲100選』。
 
 
「でも、その頃の僕はヴィヴァルディとベートーヴェンの区別もつかないぐらい。何を聴いたらいいかわからないので、まず本屋さんに行ってこの本を買って、載っている曲を順に聴きました。だけど最初はそういうつもりでも、何度も聴いていれば『素晴らしいな』と思うところもたくさんあるし、好きな曲や好きな作曲家もできてくる。絵画も全然知らなかったけれど、同じように『まずはこの絵を観ましょう』みたいな入門書から勉強して、好きな絵や好きな画家に出逢えまして。オランダに行った時にはレンブラントやフェルメールのゆかりの地を巡りましたね」
 
 何も知らなかった自分へのショックと危機感にかられ、「教養」として触れ始めたクラシック音楽や美術。それが今では「趣味」になり、人生をさらに豊かにしてくれている。歴史探訪や語学の習得もその一環だ。スペイン語はほぼ独学。本棚にはたくさんの参考書と、何冊ものノートが並んでいた。
 
 
「勉強することは楽しい。スペイン語は少し話せるぐらいですが、南米を旅した時にはホントに役に立ちました。次はイタリア語を勉強してイタリアに行きたい。塩野七生さんの小説『ローマ人の物語』が好きで、ローマ帝国に興味を持ちました。3か月ぐらいかけて、その遺跡を全部回るのが今の夢ですね」

 

 『ローマ人の物語』も人に薦められて手に取った本。それが歴史への興味につながり、旅につながり、語学につながり……さまざまな分野を結びつけながら無限に探究を続けることで「ミマス・ワールド」が広がっていく。
 

旅には時間をかける

 
 ミマスさんがつくる楽曲の二大テーマが「星」そして「旅」。世界一周旅行をはじめ、地球のどこにでもバックパック1つで出かけていくエピソードは枚挙にいとまがない。
 
「どこかの国に行くと現地でガイドブックを買いますが、それを見ていれば『あっここも行きたい』っていうのが出てくるし、そこで知り合った人から『ここに行くといいよ』という話を聞くこともある。だから『ここには3日滞在すればいいだろうな』というところに2日ぐらい足して予定を組んでおきます」
 
 勉強方法のみならず、旅先でもアドバイスを貪欲に取り入れ、柔軟に自分を変えていく。そんな情報収集の方法を、自身では「人に勧められたものは、とりあえず鵜呑みにしますね。『良いっていうんだから、まず1回触れてみよう』って」と笑うが、それも相手との縁やコミュニケーション、そして「あらゆるところから情報を仕入れよう」という前のめりな意欲があってこそ。そうして訪れた先では、自分なりの感じ方・味わい方で自然との対話をする。
 
「旅に出ると、とにかく今ここで見えてるものを全部焼きつけようと思います。普通の人なら『展望台から景色を5分も眺めたらいいかな』みたいなところに何時間もいますね。時間が刻々と過ぎていくと、山の東側に当たっていた陽が西側に動いたり、雲の形が変化したりして、見える景色も移り変わっていく。それに足元の岩肌や花……立っていると見えないけれど、座ると見えるものもありますよね」
 
 時間と空間のスケールの大きな旅をし、世界の広さを全身で知っている一方で、足元に広がる小さな世界にも目を留める。だが、天文学の眼では「宇宙の中では、地球は小さな存在だ」ということも自明だ。あらゆる縮尺で世界を捉える視点は、科学的でありながら哲学的でもある。
 
 
「星好きになったのも、そのスケールの大きさに惹かれたのだと思います。鉄道ファンに乗り鉄・撮り鉄……と種類があるように、天文ファンも星との接し方はそれぞれですが、僕の天文へのアプローチは『哲学としての見方』だと思う。天文も旅も『自分がいるこの世とはなんであろうか』という問いの答えなんですよね。それが、僕の人生のメインテーマなのかもしれません」
 

人間が作り出すものよりも精巧なルールが、自然を支配している

 
 そんなミマスさんが「これは地球の欠片でございます」と見せてくれたのは、学生時代に収集した鉱物だ。乳白色に透ける水晶、ラピスラズリやガーネット……引き出し何段ものコレクションの中から、地学に疎い取材陣の興味を惹きそうなものをサッサッと見繕い、解説をしてくれた。
 

「岩石と鉱物の違いはというと、鉱物は化学式で表せるんですね。たとえばこのパイライトは硫黄と鉄の化合物の結晶だからFeS2。で、いろんな鉱物が集まったのが岩石」

 
 そう言ってミマスさんが指し示した「パイライト」に取材陣は目を疑った。定規で線を引き、機械で削り出したような立方体。金属のような質感は、まるで工業製品のよう。
 

 

「人間が削ったからじゃなくて、分子の配列で元からこういう形なんです。僕はこのパイライトのすっきりした形がすごく好きですが、こういうのを『きれいだな』と思うのは、たとえば数学者が方程式を『きれいだ』と感じるのと通じるものがあると思う。スペインの建築家・ガウディは『自然界に直線は存在しない』と言って曲線ばかりの建物をつくりましたけど、自然界にも直線はあるし、こういうのを見ると『地球も星も宇宙も全部、原子でできてるんだな』って改めてわかりますよね。本当は自然は全部ルールに則っているし、こんなに整然としている。人間が『どうです、きれいでしょう!』って作ったものよりも精巧なものが自然にあるというのは、衝撃的なことでしょう?」

 
 宇宙の視点から、手のひらに乗る鉱物にフォーカスし、そこからさらにミクロに向かい、原子・分子まで想いを馳せ……そのすべてにおいて共通する、この世界のルールのシンプルさ、美しさに畏敬の念を抱く。そこでは人間も自分も宇宙や自然の一部であり、「人間対自然」「自分対それ以外」というような対立の構図もない。「この宇宙・この世界の中で、自分はどんな存在で、どう生きていくのか」という問いがあるだけだ。
 

「正確さ」とは「美しさ」の1つ

 
 そんな視点で描かれた曲が『COSMOS』。「宇宙のあらゆるものが、同じルールに支配されてできている」ということに対して、「それってなんてロマンティックなんだろう……」という「感動」を抱き、歌を作ったのだ。
 

「でも、そこに美を見出すのは非常にマニアックな感性だとも思うんです。だから『COSMOS』を発表した時も『誰にもわかってもらえないだろう』と思っていました。それをたくさんの人が歌ってくれるというのは、僕にとっても驚きなんですよね」

 

取材中のミマスさん

 

 そう首を傾げるが、その大もとにあるのは「科学的な正確さ」……だからこそミマスさんのメッセージは世界の真理と矛盾なくつながり、歌う人・聴く人の腑にストンと落ちるのではないだろうか。
 

「天文学が好きというところから人生が始まっていますので、『科学的に正しい』というのは僕にとって非常に重要ですね。星を見て『キラキラ光ってきれいだ』と感じる感性の人もいっぱいいるけれど、何を美しいと思うか、何を楽しいと思うかは人によっていろいろ。僕にとっては『正確である』ということが、1つの美しさなんですよね」

 

子どもの頃と変わらない自然は、人生の指針で在り続けてくれる

 
 仕事部屋はベランダに続いている。ミマスさんは子どもの頃からこの空を見上げていた。海を間近にした茅ヶ崎の空は広い。
 

「最初は本と空を見比べながら、星座を1つずつ同定して楽しんでいました。これは小学生の頃に読んでいた星の本。親戚のおじさんが買ってくれました……」

 
 
 思い出を語りながら、読み込まれた古い本を開いてくれるミマスさんの眼差しは、この本を初めて手にした当時からきっと変わらないのだろう。一度は公務員になったミマスさんが、音楽の道へ舵を切り直したその背中を押してくれたのも、旅先で見た満天の星空だった。
 

「自分は本当はどうしたいのか、何をすることが自分にとっての幸せなのか……誰しも自分自身に問う時がありますよね。でも、その答えはみんな多分知っているんです。いろんな事情でそれを見ないようにしたり、忘れてしまっていたりするんでしょうけど、それをもう一度思い出させてくれるのは自然だと思う。人間の世の中はいろいろ変わりますが、山や川や星空は、幼かった時に見たものと変わらないわけですから」

 
 あらゆるものに感性を開き、様々なスケールで世界を探求しながら紡がれてきた「ミマス・ワールド」。後編(6/1掲載予定)では、そこから立ち上る音楽観や子育てに迫る。

 


 

 初夏の星空には、北斗七星が高く輝いています。北斗七星といえば、おそらく誰でも一度は名前を聞いたことがあるでしょう。7つの明るい星が「ひしゃく」の形を作っている、有名な星の並びですね。

 

 北斗七星は、いつも真北に輝く北極星の近くをグルグル回っていますので、一年中いつでも見ることができます。とは言っても見やすいシーズンは、夜8時や9時といった時間帯に空高く昇る5月頃になります。ぜひ真北の空の高いところを捜してみましょう。実際に見つけてみると、意外と大きいなと感じるのではないでしょうか。

 

 北斗七星は星座ではありません。おおぐま座の一部です。おおぐま座は暗い星も含めて丁寧にたどると本当に熊の姿の形に星を結べるのですけれど、その背中からシッポの部分をなすのが北斗七星なのです。

 

 北斗七星を見つけたら、7つの星のうち、ひしゃくの柄の先端から2つ目の星を注意深く見てみましょう。パッと見ると一つの星に見えますが、よく見ると、すぐそばに暗い星が寄り添っているのが見えます。これが有名な二重星「ミザール」と「アルコル」です。星座の図鑑やプラネタリウムの解説では必ずといっていいほど、この二重星が古代エジプトで兵士の視力検査に使われたというエピソードが紹介されます(エジプトではなくて古代メソポタミアと書かれた本もあります)。2つに見えるかどうか、あなたもぜひ一度チャレンジしてみてください。

 

ミマス
 

★春の星空のようす 2017年5月の星空(アストロアーツ:星空ガイド)

 

 

 

 

 

 

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