2017.5.8 UP DATE

【レポート】作曲家と演奏家の感受性が対話する「《樹原涼子》を弾きたい」シリーズ

第1回ゲストに宮谷理香が登場

 

 ピアニスト宮谷理香を招いての第1回「《樹原涼子》を弾きたい」シリーズ トーク&コンサートが、4月27日(木)に行なわれた。会場は、東京・カワイ表参道のコンサートサロン パウゼ。

 

 

 25周年を超えて愛される教本「ピアノランド」を代表作にもつ樹原涼子。そのほかにも、情緒豊かな作品を世に送り出しており、ピアノランド・フェスティバルや自身のライヴなどで折々演奏してきているが、今回はピアニストが弾くという初めてのシリーズ企画だ。プログラムは、樹原涼子の3つのピアノ曲集『こころの小箱』『夢の中の夢』『やさしいまなざし』を中心に組まれ、曲間にはふたりの軽妙な、しかし、立場の異なる演奏家と作曲家、各々の感受性を浮き彫りにするような対談があり、宮谷理香の渾身の演奏とともに、より作品を深く理解し味わえる構成であった。

 

ピアノ曲集『こころの小箱』(2011年7月刊)、『夢の中の夢』(2012年7月刊)、『やさしいまなざし』(2013年7月刊)

 

 

 宮谷はクラシックの作曲家の場合は、大いに研究し想像したうえで最終的には「そうに違いない」と腹を決めて演奏しているそうだが、作曲家と話ができる今回の場合は、樹原に多くの問いかけをしたうえで、作品への理解を深めていったという。

 

 

 まずは、東日本大震災のあとに書かれた『こころの小箱』から、樹原が左手のための曲「想い出の小箱」、宮谷を招いて「時の砂」を演奏。「リハーサルから感動してウルウルしてしまった。産んだ子が出世して帰ってきたような気持ち」と樹原。音数が少ない作品は「少ない音にどう気持ちを込めるか、変化をつけるかが大切。演奏するたび変えている音を、涼子さんはキャッチしてくださる」と宮谷。

 

 「書いた曲が勝手に集まってくる」(樹原)というグループになっている曲として、『夢の中の夢』から「笑顔」、「もの想い」、「鏡」は、あちらこちらでキャッキャと笑っているような「動」から、切り替わって、ひとり静かに思いふけている様子、そこからまた好転して前を向いていく……といったようなストーリーが、宮谷の演奏によって、くっきりと見えてくる。

 

『やさしいまなざし』の表紙イラストを担当した本間ちひろさんも来場。
樹原家の自宅の庭を見たわけではないのに、描かれた庭がそっくりだったというエピソードも。

 

 『やさしいまなざし』からは、自然を題材にして音に描いたものから「森を吹き渡る風」や「星」などが取り上げられた。宮谷は「風」をイメージするクラシック曲として、ドビュッシーの「野を渡る風」や「喜びの島」を例にワンフレーズを披露。そのうえで「森」の中の風のイメージを樹原に問い、「日本の森で木々の間を喋りながら吹き抜けていく」雰囲気を伝える。宮谷は「風のシューッ、フーッというタッチが、今回のプログラムで一番難しい」と言いながらも、色彩豊かに音に描き切っていく。

 

 「光」の描写は、「光は形がなく、触れるものではない。形にして感じさせたい」という作曲家の思いに、宮谷は「それを再現して感じさせたい」と、夜空に瞬く星たち、宇宙空間で感じる星、夜が明けて家の庭で受ける光といった説明も要らないほど、演奏家として渾身の表現をし、想像させてくれた。

 


 

 

 第二部は、宮谷によるショパン2作品の圧巻の演奏からスタート。樹原が聴きに行った宮谷のコンサートでアンコールに演奏され、出会いのきっかけになり、縁をつないだというタイトル作品「やさしいまなざし」は、「母を看病している父のまなざしがすごくやさしくて」書いたもの。「曲集の表題にしただけあって、懐が深い」と宮谷はお気に入りの1曲として紹介。

 

ⓒヒダキトモコ

 

 1つのテーマと5つのバリエーションから成っている「バリエーション」は、樹原の作品の多くにもつ印象派のテイストのなかに、突如ブギウギのような「ノリノリの曲があって、実はこのノリの良さを育てたいな」と宮谷は感じたそうだ。動と静、明るさと暗さ、穏やかさと激しさ……さまざまな対比が立体的に現れてくる音楽は、情景を曲名にしていなくても、「変化」をもって聴く側を魅了してくれる。

 

 終盤には、まだ出版されていない宮谷に捧げた新曲「巡る」の初演があり、最後は人気曲「花」で華やかに締めくくられた。来場者は何か腑に落ちたような反応で万雷の拍手。アンコールにはお互いのリクエストにより、宮谷の最新アルバム「音楽の玉手箱 Vol.1 -カンタービレ-」に収録されているリャードフの「音の玉手箱 作品32」と樹原の「こころのオルゴール」(両曲ともオルゴールがテーマ)、最後に「ピアノランド」から「天の調べ」で息ぴったりの連弾をして、聴衆の感嘆のため息とともに幕を閉じた。(編集W)

 

 

 第2回の「《樹原涼子》を弾きたいシリーズ トーク&コンサート」は、2017年11月16日(木)12:00から、同じくカワイ表参道にて、舘野泉をゲストに招いて行なわれる予定。

 

主催:カワイ表参道
企画:樹原涼子スタジオ
後援:音楽之友社

 

■宮谷理香 公式ブログ「理香りんのおじゃまします!」の記事はこちら

 

■樹原涼子 公式ブログ「時々日記」の記事はこちら

 

「音楽の友」6月号(5月18日発売)「ムジカノーヴァ」7月号(6月20日発売)では、音楽ジャーナリストによる記事がご覧になれます。宮谷理香さんは両誌で連載を執筆中!

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