2017.6.14 UP DATE

【レポート】経営者としての自分を見直すワークショップ「音楽教室の経営」塾

 音楽教室を開いている指導者が、最初に悩むことの多い「生徒が集まらない」問題。集まったあとにも、レッスンの内容や指導法、場所や講師のことなど、さまざまな悩み事が出てくるだろう。

 

 それらの問題を根本的に解決し、教室のことを見直すためのセミナーが、「音楽教室の経営」塾だ。元メガバンク支店長で、現在は武蔵野音楽大学で就職指導を行いながら教鞭もとる大内孝夫氏が塾長となっている。去る6月6日(火)には、音楽之友社刊『「音楽教室の経営」塾』出版記念セミナーとして、全日本ピアノ指導者協会(ピティナ)専務理事の福田成康氏や600名の生徒をもつクレッシェンド音楽教室の主宰者・斉藤浩子先生を特別ゲストに迎え、ピティナ本部事務局・東音ホール(東京・巣鴨)で行われた。

 

 経営というテーマやワークショップ形式の新鮮さが参加者の意欲も刺激したようで、ほぼ満席のセミナーは大いに盛り上がった。

 


 

 大内氏はまず、「一般の会社と音楽教室ではどう違うのでしょうか?」と参加者に質問。会社の場合、組織として販売や人事、広報、財務などの個別の戦略を立てて経営していく。では、音楽教室では? ……レッスンを売り、講師を雇い、SNSやWebサイトをもって宣伝をし、月謝をいただくなど、「個別の戦略が必要になってくることでは同じ考え方ですね」と切り出す。

 

 

 「ヒト、モノ、カネをどう配置していくのかを決めるのが経営で、その決定に重要なのが『環境分析』『自分の強み』です。そして、“顧客”はだれなのか。『自分がやりたい』ではなく、お客にとっての“価値”とは何なのか。

 

 それにマーケティングを駆使して気付き、他の教室とは差別化されたサービスを、イノベーションによって実現させていきます。イノベーションとは、組み合わせ。顧客に提供するときに、たとえば、歌とピアノ、英語とピアノ、ダンスとピアノなど、強みを組み合わせることで生まれる。それが自分の教室の強みになっていくのですね」

 

「環境分析」の方法は、

 

・自分の教室の環境=内部環境
・いまの経営環境=外部環境

 

……におけるプラス要因とマイナス要因、つまり、

 

・強みと弱み 
・機会と脅威

 

……を分析する。著書では詳しく紹介されているが、これは一般にSWOT(Strengths、Weaknesses、Opportunities、Threats)分析と呼ばれているもので、「強みと機会があれば、そこに注力していく」、「弱みと脅威しかなければ、縮小か撤退を検討する必要がある」などと考えていくのだそうだ。

 

 忙しい先生方は、とかく「指導」と「運営」だけで頭がいっぱいになってしまいがちだが、本来は、「経営」「指導」「運営」の3つをバランスよく回していく必要があるのだという。

 

「音楽教室を取材して、経営という視点の不足を感じることが多かった。客観的にコントロールできていないことが多いんです。強みは意外と自分ではわからないもの。音楽大学は就職に不利と言われてきましたが、私が外部の目で見て、音大卒は「武器」になると本に書いたことで、今や『音大卒=武器』も一般に認知され、就活上の強みに転じつつあります。

 

 数年前に話題になった『もしドラ』本でも有名な経営学者ピーター・ドラッカーは『誰でも自らの強みは知っている。だが、たいていは間違っている。強みを知る方法はひとつ、フィードバック分析である』と言っています。人は悪い要因ばかり見る傾向にあるんですね。少子高齢化、習い事の多様化、音楽の授業の削減……などを、音楽教室の生徒数が減っているもっともらしい原因に挙げる先生がいますが、私は実は、音楽教室は大きな可能性を秘めた市場だと思っています」

 

 そういって、大内氏はいまがチャンスであるという根拠をいくつか提示した。プラスの環境変化に着目した、ごく少数の教室が繁盛する一方、多くの教室は、環境変化や将来の有望性に気づかず、全体としてマーケットが縮小していると見ているのだ。

 


 

 

 

 次に、ピティナと東音企画の経営者である福田成康氏が登壇。福田氏は、28年前に前職を辞めて経営者を始めた当初、経営の神様、松下幸之助の教えを読んでいたそうだ。その中から、ポイントを2つ紹介した。

 

 第一に、「環境の変化に乗る」ということ。

 

「自然や社会などの外の環境は、少しずつ変わっていきます。その中で、どの環境に着目するか。たとえば、昔は入学試験を受けて高校や大学に入りましたが、いまは推薦とAO入試。特に私学は、入試を受けずに入る人が増えているのですね。なので、ピティナでは、願書に書ける事実を作ってあげる。コンクールの実績やステップでの表彰などは、願書に書ければ推薦がとりやすくなる要素です。努力が報われる仕組みづくりですね」

 

 そのときに、「客観的な指標を数多く作る」ことが大事という。福田氏は400くらいのやりたいことから100種類に絞って指標を立てているそう。

 

「うそがつけない指標を立てることが大事。今日の私と3年後の私を比べられるもの。たとえば、体験レッスンからの入門率、コンペ・ステップ参加率、入門4年目の演奏曲レベル、生徒さんの通学平均距離、LINEで自由に連絡が取れる親の人数などを、毎月記録していくとよいと思います。ダイエットと同じですね。記録すると成果が出ますから」

 

 記録するという意味では、東音企画が無料で提供している「Lesson Time」というソフトを使えば、レッスンスケジュールなどの管理や練習頻度の把握も楽に行なえるという。

 

 もうひとつは、「動くものを動かす」ということ。外の環境など動かせないものを一生懸命に動かそうとせず、まずは動かしやすいもの、自分を動かして進めていくことが重要だと話した。

 


 

 

 

 ここでゲストとして、600名の生徒をもち、その中の約100名の生徒がピティナのコンペに挑戦しているという、東京・江東区豊洲にあるクレッシェンド音楽教室の主宰者、斉藤浩子先生が登場。斉藤先生は『「音楽教室の経営」塾』で大内氏が取材した教室だ。17名の講師を抱えるまでに至ったプロセスを話していく。

 

 「大学卒業後、20人くらいの生徒がいましたが、指導法がわかりませんでした。最初の生徒は3歳の女の子。真似っこさせて教えていたのですが、耳がよいのでどんどん覚えていく。でも、ブルグミュラーが限界なんですね。レッスンしている時間は楽しいのですが、楽譜が読めなくて練習してこないので、レッスンはお母さんの言い訳から始まるんです。そんなことをしていたら、生徒さんがどんどん辞めていきました。辛い経験でしたね」

 

 もともと、幼少期にピアノを習っていて、「先生のきれいな音に感動して、こんなにすばらしい音楽をもっと勉強したいと思い、音大に行った」という斉藤先生。その自分が受けてきたようなレッスンを、どうしたら自分がしてあげられるのか。ありとあらゆる教材を集めて調べ、指導法を確立したという。

 

「今回、大内先生の本を読みながら、改めて自分の強みと弱みを考えてみたんです。まず強みは、よいレッスンを受けてきたこと、先生と話していて楽しいと言われる、過去の失敗があること、美しい音を伝えたいというこだわり、でしょうか。弱みは、指導法を知らなかった。指導できていないということがわかっていなかったんです。そして、プロ意識がなかった。月謝をいただいて教えている重みをわかっていなかったし、ピアノ人生を預けてくれている責任を感じていなかったということです」

 

 そして、脅威として、当初は子育て中で時間がなかったことと、現在では若い講師の結婚や育児との両立が難しいための人手不足などを挙げた。新卒が半数を占めるという17名の講師には、「プロ意識を持って!」、「自分の限界を知ってほしい」など、自身の苦い経験を伝えながら育成を行なっているという。

 

 大内氏は、「2年目からは最低20万円の収入になるように講師を育てようとか、自分には事務仕事ができないから事務員を雇おう、レッスン場所をどう確保していくかなど、きちんと仕分けができているんですね。経営者の顔だなぁと思いました」と、著書で取材した際に感心したことについて話した。

 


 

 

 

 ここまでの話を踏まえて、「理想の音楽教室づくり」についてワークショップを開始。その間にも、すでに経営思考を実践している例として、おふたりの参加者が紹介された。

 


 

 夫婦で経営と運営を分担しているという宮本淳さんは、大人を対象にしたボイストレーニングの教室ミュージック・キャンバスを新百合ヶ丘で経営。楽譜が読めないことにコンプレックスを感じていたり、ネガティブなことを言うことの多い生徒さんたちに質問をし、その回答などからレッスンを修正している。経営者として一歩引いて見たうえで、どう教室が見られているか、どうしたら伝わるのかを考え、『「音楽教室の経営」塾』①でも紹介されていたPDCA(Plan、Do、Check、Action)を回しているという。1回単位、1週間単位で先生にフィードバックしていくことで、生徒さんが求めているものと、提供したいものが近づいていき、退会しなくなってきているとのこと。

 

 

 母親のピアノ教室の生徒数をわずか2年半で7人から44人に増やした永井玄太さんは、まさに自身が実践してきた戦略や思考プロセスが『「音楽教室の経営」塾』に体系的にまとめられていて、とても驚いたという。永井さんは、まず母親にとっての強みを考え、それを「ベテラン」と捉えた。そこで、シニア層を狙ってWebサイトで「ボケ防止」効果をうたったところ、なぜか子どもが来る。なので、次にはターゲットを「子ども」に振り、息子ふたりを育てている実績から「子育て」や「教育」を売りに、ブログでどんどん発信していったそう。いまも継続してブログを書き続け、着実に生徒数を増やしている。

 


 

 そんな話を聞きながらも、参加者はワークショップを進めていく。グループワークでは大いに盛り上がり、参加者一人ひとりが自身の教室について新たな気づきを得たようだ。

 

 

 セミナーの最後に行われた参加者の発表からも、音楽教室をビジネスとして成功させるため、経営的思考によって自身の教室を分析してみよう、と意識を新たにした様子が感じられた。このテーマは、大内孝夫氏の著書に詳しいので、生徒集めに悩まれている先生は、この本を読めばさらに考えを深めることができるだろう。(取材・文:編集部)

 


●『「音楽教室の経営」塾① 【導入編】』
教えるのは誰のために?

 

●『「音楽教室の経営」塾② 【実践入門編】』
たった2つのキーワード

 

●『「音大卒=武器」にした元メガバンク支店長が贈る!
大学就職課発!! 目からウロコの就活術』

 

●[WEB連載]目からウロコの就活・キャリアQ&A はこちら

 

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