2017.7.4 UP DATE

【レポート】ONKYO & NAXOS JAPAN「蜜蜂と遠雷 音楽集」リリース記念イベント

  2017年、史上初の「本屋大賞」と「直木賞」のW受賞で話題となっている小説『蜜蜂と遠雷』(恩田陸/幻冬舎)。若手ピアニストたちがピアノコンクールを舞台に繰り広げる青春群像劇で、文芸ファンはもとより、音楽ファンからも共感を呼んでいる人気小説だ。

 

 5月には、この小説のコンクール内で演奏されるクラシックの名曲を選んだコンピレーションアルバム「蜜蜂と遠雷 音楽集」が発売され、Amazonのジャンルチャート1位を長期にわたって独占するなど、その人気はとどまることを知らない。

 

 そして、6月28日(水)、東京・八重洲の「Gibson Brands Showroom Tokyo」にて、「蜜蜂と遠雷 音楽集」リリース記念イベント「音楽小説を《聴く》」が開催された。ゲストは音楽ジャーナリストの林田直樹氏と、「本屋大賞」実行委員の高頭佐和子氏。

 

 最高のサウンドシステムをそなえた会場で、ハイレゾクオリティの音楽と、両氏による、『蜜蜂と遠雷』だけでなく、音楽をテーマにしたおすすめの小説やマンガ、登場する音楽の魅力についてのトークを楽しむという、なんとも贅沢な内容。当初から意気投合し打ち合わせが5時間にもわたったというお二人の、息のあった軽快かつユーモアたっぷりのトーク、そして高音質の音楽に、会場は大いに盛り上がった。

 

 

 


 

 

 イベント前半は、まず「音楽と小説」を話題に進められた。

 

 林田氏は「クラシック音楽の世界は、社会に対して広く開かれていないところがありますが、僕は、中の世界で閉じてしまわずに、隣接する他の分野の芸術からどう見えるかを知ることが大事だと思っているんです。例えば文学の筆者や読者は『特別なアンテナ』をもっている方もおられますが、そのアンテナによって別な解釈をされた音楽が、どのような別の輝きを得るのか、とても興味があるんです」と語る。

 

 そして、「言葉はいかにして音楽を表現しうるか? 文学作品のなかで、音楽はどのような役割を果たしているか?」をこのイベントのテーマとして掲げ、両氏がピックアップした音楽小説と登場曲が紹介された。

 


 

■「荒野のおおかみ」(ヘルマン・ヘッセ(高橋健二訳)/新潮社)
―― モーツァルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」 - お手をどうぞ

 ※本の詳細はこちら

 

 林田「僕の音楽小説の原点となった作品です。大好きな小説は何十回でも読み返しますが、これもそうでした。モーツァルトが登場し、真面目すぎる主人公に『肩の力を抜いて、僕の音楽の中から笑いを学びとりなさい』と語りかけるところがとても好きですね。架空の出来事だけれど、作中に作曲家が登場して語る、というところに音楽を自由に思考する可能性を初めて感じました。作品の中で音楽が別な風に響くことがあるということを初めて知った小説ですね」

 

 

■「騎士団長殺し」(村上春樹/新潮社)
■「IQ84」(村上春樹/新潮社)
―― ヤナーチェク:シンフォニエッタ JW VI/18 - 第1楽章(※「IQ84」)

 ※本の詳細(「騎士団長殺し」はこちら、「IQ84」はこちら」)

 

林田「僕はあまり良い村上春樹の読者とは言えないかもしれないのですが……(笑) 村上作品にとって『セックスと死』というのはとても大きなテーマになっていますよね。また、彼の作品の特徴として、読者をある種の非現実的な世界に連れて行くための舞台設定というのもあります。セックスも食事もまるで同じ温度で語る。それは、あることを強烈に強く伝えるための技術なんだと解釈しています」

 

 

■「ピエタ」(大島真寿美/ポプラ社)
―― ヴィヴァルデイ:おお、天にても地にても清きもの RV 631 - アレルヤ

 ※本の詳細はこちら

 

高頭「ヴェネツィアを舞台にした作品で、ヴィヴァルディが『合奏と合唱の娘たち』という孤児院の中の合唱団でが教えていたという説を元に作られています。彼の死後、なくなってしまった楽譜を探すというストーリー。立場の違う人々が助け合い、絆を大切にしているところがとても感動的で、大島さんの出世作だと思います。発売当時震災と重なったこともあり、描かれている内容が多くの人の胸を打ったのだと思います」

 

林田「今回の企画のおかげで、発売当時、強烈に読みたいと思ったことを思い出しました。カナレットという登場人物は画家なのですが、ヴェネツィアの演奏家にとって、ヴィヴァルディと彼との関係性は非常に重要なんです。以前、イタリア合奏団のコンサートマスターにインタビューしたとき、『ヴィヴァルディの音楽を理解するためには、カナレットの描いた赤の鮮やかさを知ることが重要だ』とおっしゃっていて、それがずっと気になっていたんです。早く読みたくてしょうがないですね」

 

 

■「テレプシコーラ」(山岸涼子/KADOKAWA メディアファクトリー)
―― ラヴェル:ボレロ
    

 ※本の詳細はこちら

 

林田「この漫画は文芸雑誌の『ダ・ヴィンチ』に連載されていて、あらゆる意味で衝撃を受け、『圧倒的』だと感じました。この作品の恐ろしいところは、凄まじいコントラスト。美しさと醜さ、金持ちと貧乏、健康と怪我、運と不運――。あらゆるものの格差や対比が強烈に表現されていて、残酷なまでの対比がズンときます。とある演出家は『醜いものを描くと美しいものが際立つ』と言っていましたが、この作品は、まさに美しい瞬間とその逆をえぐり出すように描いています。そして、今のバレエ界はどうなっていくのか、というテーマまでも射程距離に捉えているんです」

 

高頭「すごいのは、実は決して壮大な話ではなく、天才だけでなく、いろんな子たちも描かれている、というところなんです。バレエ教室の女の子たちの中には上手な子もいれば、才能はあるけれど事情で続けられない子、病気や怪我をしてしまう子もいて。そういう女の子たちの心の傷というものを丹念に描きながら、バレエ界の問題にまで触れている。バレエをずっと追っている山岸先生ならではの、熱の込もった作品だと思います」 

 


 

 

 

 

 ここで、小休止として「ハイレゾのお話」へ。イベントで流れていた「蜜蜂と遠雷 音楽集」はハイレゾスペック版の音源という事で、その楽しみ方が紹介された。

 

 インターネットラジオ「OTTAVA」でプレゼンターもされている林田氏は、スタジオのモニタースピーカーでいつもハイレゾ音源を聴いていて、最初は違いがあまりわからなかったが、聴き続けているうちにだんだんと違いを感じ、ある時を境に決定的な差を実感できるようになったとのこと。それは、料理を口にした時に、化学調味料が入っているかどうかを感じ取る感覚によく似ているという。

 

 良い音を実感できるようになるためには、日々良い音を浴びて耳を育てることが大事なのだそうだ。大変ユニークかつわかりやすい説明に、来場者も頷きながら聴き入っていた。

 

※後半へ続く>>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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