2017.11.15 UP DATE

第5回:音楽ライター 飯尾洋一さん(1)「音楽ライター」とは、何をする人ぞ?

連載も第5回を迎えました。今回は私と同じ肩書きの先輩、音楽ライターの飯尾洋一さんです。飯尾さんはライターのほかにも、音楽ジャーナリスト、編集者という肩書きのもとにご活躍中です。私がライター業を始めた当初から、飯尾さんからはいろいろなお話を伺い、ライター仕事の極意などを教わったように思っています。この日は、私が仕事場にしているレトロな木造アパートの一室にお招きしました。

 

取材・文:飯田有抄/写真:編集部

 

飯尾洋一さんプロフィール

 

 

目次(2017年11月15日公開)

 


 

■仕事とは、他人の需要を満たすもの

 

――今日は、後輩ライターが先輩ライターにインタビューをするという、少し変わった企画です。飯尾さんがインタビューを「受けた」ご経験は?

 

飯尾 ほとんどないですね。この仕事をしていると、インタビューを「する」側に立つことは多いけれど。でも最近、僕は自分がインタビューする仕事もあまりできていませんが。

 

――「音楽ライター」といっても仕事の内容はいろいろありますものね。今、おもにどんな原稿を書いておられますか?

 

飯尾 それ、よく訊かれるけれど、意外と答えに窮する質問ですよね(笑)。コンサートで音楽関係者の方に会うと、よく「最近、何書いてるの?」って訊かれる。でも、すぐに答えられなくて、少し困る。そんなことないですか?

 

 

――あ、わかります。なぜかスッとは出てこない。

 

飯尾 僕らの仕事内容はいろいろと分散しているからね。でも、そうだなぁ、大別すると、コラムや連載などの読み物と、コンサートの聴きどころの紹介記事が多いですね。後者は、雑誌やホールなどの主催者が発行している広報誌などに載るもの。最近はチケットセールスにつなげるべく、イベントに先立って書く記事が業界全体に増えている感触があります。

 

 CDのライナーノートもたまに書きます。不思議なことに、最近コンサートのプログラム解説の仕事が増えています。オーケストラのものが多いですね。

 

読売日本交響楽団が発行するプログラム誌「月刊オーケストラ」や、
オーケストラ・アンサンブル金沢のプログラムノートで解説を執筆。

 

NHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」や
兵庫芸術文化センターのプログラムノートにも寄稿。

 

――「不思議」とおっしゃるのは?

 

飯尾 解説というと、学術的な素養のある若手から中堅の人が書くイメージだから。僕のキャリアはそうではない。

 

――アカデミックな解説も大事ですが、入門者の人にもわかりやすく、長年の愛好家にも楽しく読める文章が求められる時代なのだと思います。その意味で、飯尾さんの文章はリズム感よくスッと頭に入りますから……なんて、後輩の私がエラそうに、すみません。でも飯尾さん、解説書くのお好きだって、前に言っていましたよ。

 

 

飯尾 そう、実は好きですね。

 

――仕事の種類や内容について、「このジャンルなら任せてほしい!」とか「本当はああいうものが書きたいのに、こういう依頼が増えてしまったな」とか、ありますか?

 

飯尾 いや、ないですね。僕は「やりたい仕事」っていうのは特にないので。

 

――えっ!?

 

飯尾 「来た仕事をやる」のがポリシーというか。仕事というのは、他人の需要を満たすものだと思ってる。自分のやるものを自分で決めない。自分のやるものは人が決める。それでいいんじゃないかな。ただね、断る自由だけはある。やりたくないものはお断りできる。それは、この仕事のいいところです。

 

 

 

■異例の書籍デビュー

 

――飯尾さんには「初めてクラシックを聴く人にもわかりやすく」とか「入門者向けで」といったお仕事が多いですよね。そこに対しては、どんなふうに思っていますか?

 

飯尾 いいと思っています。最初にどう世に出るかで、その人の方向性は決まると思いますが、僕は最初に出版した本が入門者向けだったので、やはりそういう依頼が多くなっています。それでいいんじゃないかな。

 

――こちら、記念すべき最初のご著書ですね。

 

クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!』(三笠書房/王様文庫)

 

飯尾 2007年、最初に出した本です。会社員としての組織プレイが今ひとつ肌に合わなかったのか、特に志高い理由もないまま出版社を辞めてしまい、フリーランスとなって細々と仕事をしている中で舞い込んだ仕事です。実は、これは実績のある方が執筆する予定だったそうなのですが、その方の都合がつかなくなってしまった。それで急遽代役が必要になって、編集プロダクションの方が僕を推薦してくださったのです。よく指揮者とかピアニストが急な代演でデビュー、というのがあるでしょう。あれですね。

 

――なんと、書き手にも代役デビューというドラマが!?

 

飯尾 で、この本がすごく売れた。知らないでしょう(笑)。音楽書にしては驚異的大ベストセラーなんですよ。新聞広告には11万部って出ましたね。売れる本って、発売する前から重版がかかるってことを初めて知りました。本屋に並ぶ前から「重版決まりました!」って2回くらい連絡がきたんですよ。びっくり仰天。

 

 

――え、発売前から?

 

飯尾 もちろん、僕のチカラではありません。当時「のだめカンタービレ」で大人気だった漫画家の二ノ宮知子さんが、表紙に絵を描いてくれたからなのです(笑)!

 

――!!

 

飯尾 本屋さんは「のだめカンタービレ」のコミックの隣に、この本を置いたらいいんじゃないか、と考えたのでしょうね。出版社の営業や編集の担当者も優秀で、とてもがんばってくれました。

 

――華々しいデビューですね!

 

 

飯尾 そう。1冊目で夢にも思わなかったヒットを出した。ところがね、同じシリーズで2冊目を出したら、そっちは売れなかった(笑)。そこで早くもトドメをさされたんですよ。早いな、オレの人生は! 一気に頂点まで来たかと思ったら、もうトドメが来たよ、と思いました。

 

 

 本がどのくらい売れているかというのは、出版社の人はわかるんです。他社の本でもデータがある程度は見える。売れていない人が売れているフリをするなんてできないんです。だからもう、自分には本の依頼はないな、と思いました。

 

――シビアな世界ですね。

 

 

飯尾 でも、最初の本が売れたからか、そこからじわじわ仕事が広がっていきました。仕事を頼んでくれる人が、どういう経緯で僕のことを知ってくれたのか、そのルートは人それぞれでしたが。会社員時代から知ってくれていた人だったり、僕のWebサイトを見てという人だったり、書店で本を見て知ったという人もいます。

 

 この世界で活躍してる人って、意外と著書や単著がなかったりするんです。それは、忙し過ぎて本を書く時間がないから。短いサイクルでプログラム解説などの原稿を次々と書いている。仕事が増えると、「本を書く」という時間はなくなっちゃう。書き下ろしはすごくエネルギーが必要だから。僕は1冊目のころ、まだ仕事が少なかったので、執筆時間をまるまる本を書くことに充てられたんですね。

 

――本は長期的な作業が必要ですものね。雑誌記事や解説などの執筆とは、時間の流れ方が違うというか……。

 

飯尾 僕は2冊目でトドメを刺され、仕事も増えたので、もう自分には本は書けないと思ったけれど、3冊目のお話が来ました。1、2冊目は、女子高生にもわかるクラシック入門書、という依頼でしたが、今度は40歳前後の人に向けた新書による入門書。こちらも編集プロダクションからの推薦でした。でも、書き下ろしをする時間は持てなかったので、途中までは架空連載のように、毎月少しずつ納品して、ある程度から先はまとめて書きました。

 

R40のクラシック ── 作曲家はアラフォー時代をどう生き、どんな名曲を残したか
(廣済堂新書)

 

――書き手にとって「締め切り」があることは、とても重要ですね。一冊丸ごと書き下ろしは難しくても、連載なら書けるという感覚、わかる気がします。

 

飯尾 そうこうしていたら、4冊目のチャンスが来ました。やはり入門書です。こちらは、東急沿線で配布されている広報誌「サルース」で連載していた文章を掲載したり、僕が話したことをまとめてもらうなどして形になった本です。最近は監修の仕事でも本に携わっています。

 

入門者向けの『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)は
中国語版が出版されることになった。
同じ本とは思えないほどデザインのテイストが異なる。

 

 

田中マコトさんの漫画『今宵は気軽にクラシックなんていかがですか?』の監修を担当。
やはりこちらも入門者向け。

 

 

近刊「マンガで教養クラシック はじめてのクラシック」(朝日新聞出版)は
飯尾さんが監修し、飯田さんも協力している。

 

 


 

 プロフィール 

 

飯尾 洋一 いいお・よういち

 

音楽ジャーナリスト、音楽ライター、編集者。都内在住。
著書に『クラシック音楽のトリセツ』(SB新書)、
R40のクラシック ─ 作曲家はアラフォー時代をどう生き、どんな名曲を残したか
(廣済堂新書)、『クラシックBOOK この一冊で読んで聴いて10倍楽しめる!
クラシックの王様 ベスト100曲』(ともに三笠書房・王様文庫刊)。
東急沿線スタイルマガジン「SALUS」連載、NHK交響楽団「フィルハーモニー」連載、
ぴあ クラシック最新情報」、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」
音楽祭公式レポート、「日経パソコンオンライン」連載等、
雑誌、オンライン・メディアに寄稿するほか、
音楽CDや各種媒体へのクラシック音楽関連企画に携わる。
NHK Eテレ「クラシック・ハイライト」2013、2015出演。
2015年よりテレビ朝日「題名のない音楽会」音楽アドバイザー。
FM PORT番組「クラシック ホワイエ」ナビゲーター。
ANA機内プログラム「旅するクラシック」を構成。
1989年より音楽之友社にて月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」「新編 音楽中辞典
「音楽之友社OnLine」他の編集を経た後、2005年より独立。
1965年金沢市生まれ、サッカー好き。ブログ日々更新中。
http://www.classicajapan.com/

 

ANA機内プログラム「旅するクラシック」では
ユニバーサル クラシックス&ジャズのライブラリーから
テーマを決めて選曲する構成を担当。

  

 

 

 

 

 

 

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